日当たりの良いリビングで過ごしていたら、ソファーに座ったままでいつの間にか眠ってしまったみたいだ。何か夢を見た気もするのだけれど、何にも思い出せない。
電気羊の夢じゃなかったのは確かだから、あの有名な問いかけへの返答はノーになるけれど、アンドロイドだって夢は見る。
膝の上を見下ろせば、すやすやとレナが眠っていた。
この人間の女の子は俺の飼い主で、俺の一番大事な人。
大きな緑色の目は今は伏せられているけれど、いつも素直な彼女の目が、俺はとても好きだ。
ヒトとして生きていた頃の人格とか記憶とかを持ったまま、その頃の姿を模した姿でアンドロイドとして生まれ変わってはや十年。そのほとんどをレナと一緒に過ごしてきた。
ヒトとして生きていた頃の記憶は、思い返せば不運の連続だった。
たった十八年で終えた生涯の中で一番不幸だったのは、やっぱり冤罪で死刑になったことかな。あんまりの惨めさに自分が可哀想になるぐらいだ。
そしてその惨めさは俺の中に大きな穴をあけた。
でも、レナと一緒にいると、暗い気持ちにならない。
眠るレナの髪をそっとすいてみる。彼女は少し身じろぎをしたけれど、気持ちよさそうに眠ったままだ。
アンドロイドになってすぐ、俺はレナの遊び相手権護衛としてこの家にやってきた。出会った頃は六歳だったレナももう十六歳だ。
自分が成長しないこともあって、レナが大人になっていくことが俺はとても嬉しかった。
レナは素直で無邪気で危なっかしいところもたくさんあるけれど、そんな彼女と過ごすうちに俺の中の惨めな気持ちはどんどんなくなっていった。
代わりに生まれたのは、何としても彼女を守りたいという思いだ。
俺にあった穴は塞りはしなかったけれど、レナによって形を変えたのだと思う。
ただ樹に空いただけの樹洞が鳥や動物の巣になって彼らを守るように、虚ろな穴の空いた俺をレナが必要としてくれるその間は、俺はレナを守りたい。
いつまで彼女を守れるのかはわからない。
十年という月日の中で新しいアンドイドは次々と生まれ、この先もどんどん生み出されていく。
その分俺はかなり型落ちしてしまい、いつまでこの身体をメンテナンスできるのか、いつこの身体が停止してしまうのかと不安が尽きない。
身体が動き続けても、レナが俺をいらないというかもしれない。
けれどもそれでもいいと思う。
身体が大きくなれば鳥も動物も巣を替える。小さくなった巣に住み続ける必要なんてない。
だからレナもいつか俺から離れてしまっても、それはきっと自然のことなんだ。
でも……できたらレナが巣立つ日は、今すぐじゃないといいな。
樹とは違って、俺には心があるから、気持ちの準備をさせて欲しい。
眠り続けるレナの体温に誘われて、俺はまた眠気を覚える。もしかしたら今度こそ電気羊の夢でも見るのだろうかと考えてしまうあたり、本当に眠いみたいだ。
視界を閉し、誘われるままもう一眠り。
傍らの体温は暖かく、午後の日差しは柔らかく。
そうして俺は、大きな樹になって小鳥のレナを守る夢を見た。
