CLOSEDの札を下げに店先へ出たところでチサトと出くわしたので、へらりと笑う彼を、何も言わずにテオは店の中に入れてやった。カウンター席へ座らせ、彼の好物であるカスタードプリンクレープを焼いてやる。
菓子を食べながら、仕事に対することを少しずつチサトは話す。テオは彼の話を邪魔しないようにわずかに喋るのみだ。それでも徐々にチサトの疲れ切った顔は活力を取り戻していった。
「美味しかったです。テオ。いつも話を聞いてくださり、ありがとうございます」
やがて好物を完食したチサトは目に見えて元気になって、丁寧に頭を下げると店を出ていった。
彼が去ると残されたテオは長く息を吐き出した。良かったと思った。
この街の住人は、彼らにしかできない仕事をしている。風を運ぶ仕事、植物に色をつける仕事、天気を左右する仕事などだ。
だが、彼らは自分の仕事が世界にどう影響しているかと言うことには無自覚で、中には強い精神的負担を抱えるものもいる。チサトもそんな住人の一人だ。
テオの仕事は、そんな彼らの心を癒すことだった。この街の住人の仕事では唯一世界のどこにも影響しないが、世界を動かす他の住人たちにとってはなくてはならない存在だ。
『あなたはこの街のみんなに寄り添ってあげてほしい』
テオにこの仕事を任せた人物の口癖だった。お節介すぎず、突き放しすぎず、決して彼らを否定せず、ちょうど良い距離の他人として、彼らに寄り添い心を癒す。
口で言うのは簡単だが、それはとても難しかった。テオは何度も失敗をしたし、今でもこれで良いのかと悩む日々だ。
今回は、多分うまくいった。チサトは綺麗にクレープを完食したし、晴れやかな顔で帰っていった。
だが、次はどうだろう。この先もうまく寄り添えるだろうか。皿を洗いながらテオは自問する。
けれど、こればかりはその時になってみないとわからない。
溜息をついたその時、入り口のベルがかすかに鳴った。ほとんど駆け込み寺のようなこの店のCLOESDの札はあまり意味を成さない。
「いらっしゃい」
気にせず入ってこい。言外にそう滲ませ、テオは悩める住人を招き入れた。
今度も上手く寄り添えるだろうか。悩める住人をカウンターへ座らせながら、テオもまた悩んでいた。
