吊り橋効果。不安や恐怖心を恋と勘違いするという錯覚。
「本当かどうか試したいんだよ。美紀ちゃん付き合ってよ」
有無を言わせぬ先輩の気まぐれに、アホらしいと思いながらも結局付き合うことになった。
「どうせならいろんな種類のドキドキで実験したいよね」
そんな理由でやってきた遊園地でさまざまなアトラクションに挑戦した。先輩曰く、「同じ絶叫系でも感じかたが違う気がする」。もちろんお化け屋敷も外さなかった。
そうして一日をかけて遊園地を回った先輩の感想は「やっぱり吊り橋じゃないとダメなのかな」だった。
「ドキドキ、というかジェットコースターはドキドキ通り越して心臓バクバクだったけど、恋とは違うよね」
観覧車に揺られながら先輩は心底残念そうに言ったけど、それ以前にもっと根本的な問題があるんじゃないかと思う。
「先輩、恋愛対象女ですよね。俺じゃなくて女の子と行くべきです」
すると先輩は、「それはちょっと困るんだよ」と口を尖らせた。
「それで好きになったら、錯覚か本心かどうか分からなくなる。
美紀ちゃんとなら、絶対錯覚だ! って片付けられる」
「……いや、そういう実験でしょう。吊り橋効果って」
何か根本からずれている気がするけど、それを言及しようとしたところで観覧車のドアが開いて、タイミングを失ってしまう。
「今度はさ、本当の吊り橋に行こうよ。美紀ちゃん相手にドキドキできたら、本当なんだって信じられる」
「……それで俺のことが好きになったら、どうするんですか」
「だから言ったよね。美紀ちゃん相手には絶対恋愛感情なんて抱かない!」
退園ゲートを潜り、そのまま駅の改札を抜けながら、先輩は可笑しそうに笑った。
「ひとまず、今日はありがとう。美紀ちゃん相手にドキドキはしなかったけど、美紀ちゃんと遊園地で遊べて楽しかったよ。
吊り橋に行く日はまた連絡するね」
そう言ってホームへ駆け下りた先輩の姿が見えなくなるまで、その背中から目を離せなかった
「……絶対、か」
わかっていたけど、先輩にとって俺は、ただの気安い後輩なんだな。
知らずに長いため息をついてしまった。
ジェットコースターのドキドキは恋とは違う。
その通りですね、先輩。だって俺のこの気持ちは、そんなものでは表せません。
けれど、そうですね。
たとえ錯覚だったとしても、もし吊り橋で先輩が俺にドキドキしてくれたら、この恋は叶うと信じてもいいですか。
