誰かさん

「あーもう! 男なんて、男なんて!!」

今日何度目か分からない、さらに言えば今まででもう何度聞いたか分からない嘆きを、ゆうは静観した。タイトなニットにフレアスカートを合わせた幼馴染は、缶ビールの残骸を前に完全に出来上がっている。
素性の知れない誰かの説いた『モテ!男ウケ!』に完全に踊らされている彼女は、どうしてこんなに努力しているのに自分には彼氏が居ないのかと納得がいかないらしい。

「なんで……何でよ。何で私には彼氏ができないの」

飲みすぎて泣きが入るのも想定内のことで、有は今日も同じことを言う。「誰でもいいから付き合いたい、って言うのがよくないんじゃん」と。
すると女性誌の情報を鵜呑みにした化粧を施した──今はすっかり涙で化粧が崩れている──彼女は噛み付く。

「だって選り好みする余裕なんてないもの!」

そうして缶ビールを一気に煽ると、突然彼女は電池が切れたかのように突っ伏して眠ってしまった。
しかしこれもいつものことなのでさして有は驚かない。彼女が風邪を引かないようにと有が毛布を掛けてやるところまでもがいつも通りだ。

誰にも狙いを定められないから結局のところ不発に終わるんじゃん。口には出さず有は思う。
『下手な鉄砲数打ちゃ当たる』なんて言うのは適当で無責任な話で、『誰でも』ではなく『誰かを』狙うべきで、だったら今のままではどうしたって無理だと気がつくのに。

似合わない服装に似合わない化粧。さらに言えば似合わない茶髪をした幼馴染を有は見下ろす。
まだ田舎にいた頃の彼女は艶やかな黒髪の似合うボーイッシュな少女だった。飾らない姿に密かな好意を寄せる人物がいたことを、彼女は知らない。

明日になればまた彼女は、見知らぬ誰かの狂言を信じ、その通りに己を飾る。有の言葉など届かない。
そうしてまた己の努力が実らないと泣き喚く。その繰り返しだ。

それでもいいと有は思う。
彼女が『誰か』に狙いを定めないでいるうちは、彼女は有のところへ通い続ける。
だから有は、その『誰か』が現れるのは一日でも遅くあれと今日も願う。

穏やかな寝息を立てる幼馴染を、有はそっと抱きしめた。
誰でもいいなら自分でもいいじゃないかとは、今日も言えなかった。