背番号一番のユニフォームはその日のうちにゴミ箱へぶち込んだ。
県下ナンバーワンのキーパーを引き入れるための綿密な計画は失策に終わった。
連盟から届く召集状は毎年破り捨ててきた。
他人が揃えた顔触れなんかではなく、自分が選んだ最強のメンバーで勝ちたかった。
だと言うのに、
「来年こそは、参加しろよ」
こいつは毎年そう言って俺を県代表に誘ってくる。
「あんな生ぬるいチームで戦えるかよ」
俺は毎年そう言ってそいつの誘いを蹴る。話は毎年そこで終わる。
だが、
「織田」
今年は様子が違った。いつもの通り背を向けて立ち去ろうとした俺の腕を、そいつがしっかりと掴む。
思いの外強い力に驚いて思わずそいつの顔を見ると、これ以上なく真面目腐った顔でそいつが言う。
「全国優勝したチームの、どこが生ぬるいって?」
有無を言わせない迫力がそこにあって、俺はそいつから顔を逸らした。
腕を振り解こうとしても解けない。それどころかさらに力が込められた。
この男、千石は県代表の常連だ。
そんな奴の言うことなんか聞けるかよ。そう思っているのに、俺の耳に再び千石の声が響く。
「織田。お前は何を恐れている? 何が気に入らないんだよ」
千石の言葉に引っ掛かりを覚える。恐れている? 俺が?
「……俺は俺が自分で揃えた面子で戦いたい」
顔も見ずにそう言う俺に、千石は「いいや。違う」と首を振った。
「お前は自分の実力を自分以外の奴にジャッジされるのが怖いんだ。だから自分自身が選ぶ側に立ちたいんだよ
けどな、他人に評価されることが怖い奴が、他人を評価できるかよ」
千石の言葉は鋭い破片だった。そいつが容赦無く突き刺さるのを感じて、俺は歯を食いしばった。
そうだ、だから俺は県下ナンバーワンのキーパーが欲しかったんだ。
県代表なんかじゃなく、俺のチームにあいつを引き入れたかった。お前のチームは最強だなと言われたかった。
それは自分自身が誰かに評価されることに対する恐れからだった。
ギリ、と音がなるほどに歯を食い締めた俺を千石は再び呼ぶ。
顔を背け続ける俺の正面に回ってきて、無理やり視線を合わせて言う。
「心配するなよ。代表選考は公正だし、お前だって真剣に取り組めば選ばれる」
腕を掴んでいた手が離れていく。代わりに両手を両手で握られる。
その手が思いの外優しくて、俺は歯を噛み締めるのをやめていた。
「……そんなに俺が欲しいのかよ」
握られた手を見つめながら言うと、千石は真剣に頷いた。
「お前の統率力はエースとかキャプテン向きだからな。
才蔵たちが卒業しちまう穴を埋めねえと、来年優勝旗を死守できねえ」
「俺が代表選考に落ちたら、責任取れんのかよ」
「んなもん取れるかよ。けど、俺は信じてるからな」
そうして笑う千石は、日差しのせいだとは説明できないほどに眩しく見えた。
******
「前年度大会優勝、山梨代表から、優勝旗の返還です!」
名前を呼ばれた千石が優勝旗を手に前へと進み出る。
その直前、一瞬だけ千石と目配せをして頷きあった。
今年も優勝旗は俺たちのものだ。
最強の顔触れが揃った俺たちが負けるわけがないと、俺も千石も確信しているのだった。
