告白の場に使われたり、
授業をサボる不良がいたり、
はたまた、昼休憩に友人たちとワイワイ喋りながら弁当を食べたり。
あなたは、その場所でそういったことが許されるのは、フィクションの世界の話だと思っている。
だから、この春に新設された自社ビルに配属が決まった時、ルールブックに『屋上は昼休みのみ解放しています』という一文を見かけたあなたは、目を見張ったのではなかろうか。
しかし、建設されたばかりのビルは高層二五階建て。
あなたが仕事をする一三階から上がるにはひとつ上の階で高層用エレベーターに乗り換える必要がある。
それを思って、あなたは面倒だなと思ったかもしれない。
だからだろうか。はたまた仕事に忙殺される毎日が待ち受けていたからだろうか。
あなたは屋上のことなど、頭の隅に追いやってしまった。
そんなある日のことだった。昼休み中に電話をする必要があったのだが、なにせ高層ビルの中。電波が思うように届かない。
途方に暮れたあなただったが、その時頭の隅に追いやっていたものがそっと顔を覗かせた。
そう、屋上の存在だ
昼休み終了まで一〇分。急いで電話を掛けなければならない。
考えるより先にあなたは階段で一四階まで上がり、そこから高層用エレベーターに飛び乗った。
果たして辿り着いた屋上は、閑散としていた。
環境に配慮した商品を主力とする自社の本社ビルらしく、幾つもの木々が植っている。整備された歩道には幾つかベンチが設置され、パラパラと人が座っている。
まるで小さな公園のように穏やかな時間が流れているその光景にふと、あなたの今まで忘れていた記憶が呼び起こされた。
それはあなたが今までの人生の中で唯一立ち入ることを許されていた屋上——デパートの屋上遊園地だった。
ピーク時にはヒーローショーが頻繁に開催されていたらしきステージがポツンとあるだけで、遊具といえば、一〇〇円で動くパンダの乗り物が一つあるだけだった。
幼いあなたはそのパンダをとても気に入っていて、他に誰も居ないことをいいことに、デパートを訪れるたびに乗っていた。
この屋上は、あの時の屋上に似ている。
ほとんど人がいないからこそ、秘密基地のような、大切な場所のような、それでいてどこか懐かしい気がする。
こんな場所で、電話を掛けても良いものだろうか。
あなたは電話を握りしめていた手を少し緩め、詰めていた息を吐いた。
よくよく考えればそこまで急ぎの電話ではない。終業後に掛けても充分間に合うだろう。そう思い至って時計を見ると、昼休憩終了五分前だった。
あなたはもう一度周囲を眺め、仕事に戻ることにした。
明日にでも、弁当を手にこの場所で昼休憩を満喫したい。
せっかく立ち入りを許されているのだから、フィクションの主人公のように振る舞っても許されるはずだ。
その様子を想像してあなたは微笑んだ。
