幸運 - 2/3

ややこしいことになったな。足元を見ながらダンは歩いた。
なんでこないなことになってんや。恨めしい気持ちで緑の絨毯に眼を凝らす。
仲間たちも同様に、広大な白詰草畑に足を踏み入れる。

簡単な道中護衛の依頼のはずだった。近頃盗賊が出るとかで、銀貨八〇〇枚でダンたちは雇われた。
危険手当込み、賃上げ交渉は失敗。それでも依頼は滞りなく完了した。
だが、その滞りのなさが寧ろ、依頼人には不満だったらしい。

「何も起こらなかったじゃないか。金を払う義理などない」

無事目的地に到着し、さて報酬を受け取ろうかというときになってごねられてしまった。

「それは我々が幸運やっただけです」

八〇〇枚の銀貨を今日の飯代に換算していたダンたちは食い下がった。

なんにも起こらんのが一番幸運なんです」

すると初老の依頼人は、「幸運か」と顎を摩ってこう言った。

「そこまで言うのなら、あんたらがよっぽどの幸運の持ち主だと証明してもらおうか」

そうしてダンたち六人は、依頼人の土地だというこの場所で、四つ葉のクローバーを探す羽目になった。

めちゃくちゃや。ダンは天を仰ぎたい気分だった。
四つ葉のクローバーは突然変異種だ。確率にして十万分の一。いくらこの畑が広大だからと言って、そう簡単に見つかるものか。
けれどこれには今日の飯代がかかっている。なんとしても見つけなければいけない。
それこそ己の幸運に祈るような気持ちでダンは四つ葉を探したが、結果は芳しくない。

「あかんか……そっちはどうや?」

すぐ近くで腰をかがめていたベルナルに声をかけてみた。
彼は黙って首を振った。思わずダンはため息を漏らす。

「どうやらあの依頼に飛びついた時から、我々の不運は始まっていたようですね」

ため息を聞きつけたらしく、反対隣にいたケストナーが肩をすくめた。

「それってボクが悪いって言いたいの?」

むっとした口調でアニエスが突っ掛かる。タダ働きに終わりそうなこの依頼を持ってきたのは彼女だった。
ケストナーは「そんなことは言っていません」と言ってまた肩をすくめた。その様子にアニエスが苛立ちまた何かを言いかけるのを、「やめーや」とダンは静止した。

経緯いきさつはなんでもええ。今大事なんは、あの爺さんの孫二人が見つけたっちゅう数より多く、四つ葉を見つけて報酬をもらうことや」
「そうだな。仲間割れしている場合じゃない」

視線は地に落としたままフォルシュが同意する。
それきり誰も口を開かず、再び緑の絨毯に眼を凝らす。五人がかりでもやはり四つ葉は見つからない。

……五人、、

ダンはふと、一人姿が見当たらないことに気づく。

「なあ、ルシアナどこ行った?」

ずっと下を向けていた視線を上げ、ダンは少女の姿を探した。
仲間たちも「言われてみれば」と彼女を探す。突然変異種のクローバーを見つけられない五人の目はしかし、仲間の姿は簡単に見つけることができた。
五人から少し離れた場所でルシアナは黙々とクローバーを摘んでいる。

……摘んでいる、、、、、

「ちょ……ちょお待て」

ダンは信じられないと言った面持ちで、ルシアナに早足で近づき、目を見開いた。

「? どうしたの、ダン」

息を呑んだダンをルシアナは不思議そうに見上げた。

「どうしたやあらへん! なんやこれ」

二人の様子をおかしいと思った他の四人もやってくる。そうしてダンと同様に驚いた。

「どうなっているんだ?」とフォルシュ、
「なんで! どうして?」とアニエス、
「嘘だろう」とベルナル、
「魔法ですか」とケストナー。

それもそのはずだ。五人の反応に首を傾げるルシアナのすぐ側に、あれだけ探しても見つからなかった四つ葉が束になって積まれていたのだ。