そうして話は冒頭へ戻る。
血の気の引いた顔をしている祖父の気も知らず、彼の幼い孫娘たちは声を上げ喜んだ。そしてルシアナの手を引き、クローバー畑へと駆けて行った。
緑の絨毯の真ん中でルシアナが四つ葉をまた一つ二つと見つけるたびに幼子の歓声が上がる。依頼人の男はいっそ卒倒してしまうのではないかと言うほど哀れな顔になっている。
無理もない。彼がダンたちに課した条件は『四つ葉一つにつき銀貨二〇枚』。大人しく最初から八〇〇枚の銀貨を支払っていたほうがずっと賢かったのだ。
ルシアナにこないな特技があったとはな。
ダンは依頼人の向こうでクローバー畑に屈む少女を眺めた。彼女に言わせれば、三つ葉の中に四つ葉を見つけることは、リンゴの中からイチゴを探すようなものらしい。
「リンゴもイチゴも赤いけれど、簡単に見分けがつくでしょう」
そんな彼女はやはりと言うべきか、四つ葉のクローバーがその希少さから幸運の象徴とされていることなど知らなかった。ダンたちの説明を聞き、依頼人がどうしてこんなに簡単なことを自分たちに課したのかをようやく納得したらしかった。
幸運とは、得てしてそんなものなのかも知れない。そうダンは思った。
知らないうちに手にして、知らないうちに手放している。自分にとって何でもないようなことが、他人には幸運の形をしている。
ひとまずダンにとって幸運だったのは、ルシアナが自分の仲間だと言うことだった。この少女のおかげで今日を生き延びることができる。
ダンは視線を哀れな依頼人へと戻すと、彼の名を呼んだ。そして、
「銀貨八〇〇枚、払ってもらいましょか」
そう言うと、最後の審判を待つような面持ちだった依頼人は、大きく眼を見開いた。
「今回のことはお互い、見込みが甘かったっちゅうことで一つ」
言い終えると、ダンは今度は心から笑った。
そう、何もかもが見込み違いだったのだ。ダンたちがこの依頼を受けたことも、道中に何も起こらなかったことも、そこに依頼人が不満を持ったことも、ルシアナが四つ葉のクローバーを探す達人だったことも。
だったら変に禍根を残すより、当初の予定通りの銀貨で手打ちにしたほうがいい。
今回のことはいずれ、酒の席での笑い話になるだろう。そんなダンの思いは、どうやら依頼人に届いたようだった。
「それであんたらが満足ならば」
ようやく血の気の戻った顔で彼は言った。「かまへんですよ」とダンは頷いた。
クローバー畑に夕日が差す。ダンには幸運の象徴は見つけられなかったけれど、それは確かにここに存在して、よく眼を凝らせば見つかるのだろう。
依頼人の幼い孫娘たちが、揃って四つ葉を見つけたらしい。摘み取った四つ葉を持ってルシアナへと駆け寄る様に、ダンは少し微笑んだ。
