白昼夢

白昼夢の中を、真里菜まりなは生きている。

海風を受けて、真里奈の黒いワンピースがたなびいた。浜辺を歩く彼女は一人きりなのに、まるで隣に誰かがいるかのように中空を見上げて目を細めた。
彼女にはきっと、居なくなった恋人が見えているのだと、優一ゆういちは数歩後ろから彼女を見つめていた。

生前、じゅんが海に行きたがっていたことを思い出したのは偶然だった。それを口実に、優一は真里奈を誘い出した。
恋人が亡くなってからろくに遠出をしなくなった真里奈だったが、潤が行きたがっていた海だと知ると「行きたい」と言った。

優一は、先を歩く真里奈を見つめてこっそりため息をついた。死してもなお彼女を縛り続ける親友を恨めしく思った。
と同時に、潤に心を奪われ続けている真里奈が愛おしくて仕方がなかった。

これは横恋慕になるのだろうか。
潤はもうこの世にはいないが、真里奈の白昼夢の中で生き続けている。そしてその限り、真里奈は優一を好きになることはきっとないだろう。
どこまで行っても真里奈にとって優一は恋人の親友でしかない。優一が勝手に好きになっただけだ。

「優一くん」

ふと、前を歩いていた真里奈がにこやかに振り返った。ショートヘアが海風に遊ばれて揺れて、彼女の輪郭を曖昧にする。

「なに?」

優一はあくまで平静に微笑んだ。すると真里奈はますます笑みを深くする。

「連れてきてくれて、ありがとう」

それだけを言うと、彼女はまた前を向いて、上機嫌で浜辺を歩き出した。
その細い肩を、隣を歩く潤の腕が抱き寄せるさまを、優一ははっきりと見てしまった。

潤が死んでから、真里奈は彼の死を突きつけるもの全てを拒否したが、優一はその枠に収まらなかったらしかった。
それがどうしてなのかと優一は不思議に思っていたのだが、それはきっと優一も真里奈と同じように、潤がまだ生きているような心地がしているからなのだと、真里奈への恋心を自覚してからとみに潤の幻を見るようになって気がついた。

白昼夢の中を生きているのは、俺のほうかもしれない。

優一は、身を寄せ合う恋人たちの背をのんびりと追いながら、その幻覚をかき消そうともしない愚かな自分を、シニカルに笑った。