さらさら

試合に動きがあるたびに、隣で鉛筆が走る。
さらさらとシートに書き込まれて、スコアブックは分厚くなる。
一瞬の出来事を見逃すまいと、眼鏡が光った気がした。

合同練習初日に才蔵さんが「うちのスコアラーなんだ」と連れてきたのは、ちょっと冴えない眼鏡くんだった。
ちゃんと自己紹介があったはずだけど、ひでまるが『ナルト』って呼んでいたのが妙にしっくりきちまって、本名は忘れちまった。
まあ、どうでもいいことだよな。

ナルトに対しての第一印象は、とにかく冴えないやつだな、だった。一生懸命なのはわかるけど、記録もれがよく目立った。
せっかく俺が活躍したのに書かれていないことだってあった。
絶対俺のほうがスコア書くの上手いじゃん。なんて思ったこともあった。

けど、それも昔の話だ。

俺たちは練習試合や合宿を経験してどんどん強くなった。それと同じように……いや、もしかするとそれ以上のスピードで成長したやつがいた。
それがナルトだった。

ぎこちなかった鉛筆の動きは日が経つに連れて滑らかになった。
単なる得点記録だったスコアシートには予測や考察がびっちり書かれるようになった。
今ではナルトの記録を見て、監督やカメのじっちゃんが練習メニューを組むようになった。
うちのチームはナルトの記録に支えられているって言ってもいいぐらいだった。

試合がまた動いた。三郎丸のアシストでひでまるがゴールを決める。
すると、さらさらとナルトは鉛筆を走らせる。目の前で起こった出来事がそのまま紙の上に浮かび上がる。そこにすかさず注釈が添えられる。
『三郎丸→ひでまる◎』『ひでまる→三郎丸 要練習』
……次の練習試合、ひでまるはアシストの練習をさせられそうだ。

「神谷くん」

スコアシートから目を離さないままのナルトに、急に名前を呼ばれて俺はびっくりした。

「ごめんね、陰になっていて手元が見えづらいんだ」
「! わ、悪ぃ!」

俺は慌てて頭を上げた。言われるまでナルトの手元を覗き込んでいたことに気づかなかった。
なんだか恥ずい。そう思っていたら、ナルトはくすくすと笑った。

「心配しなくていいよ。もう君の活躍を書き漏らしたりなんてしないから」

その言葉に返事をしようとした時、監督から声がかかった。交代するから準備をしてくれと。
俺は返事をしてベンチから立ち上がり、ジャージを脱いでユニフォーム姿になる。

「頑張ってね」

今度は顔を上げて目を合わせて声をかけてきたナルトに、俺は「おう!」と返事をした。

「スコアシート十枚分ぐらい、大活躍してやる!」

そうして俺は、ナルトの声援が何よりの力になるのを感じながら、コートへ向かって走った。