「七夕伝説?」
満天の星の元でボールを蹴っていたひでまるは、やはり知らなかったようじゃ。わしが概要を話して聞かせると、黙って聞き入った。が、
「一年に一回ならいいじゃんか」
話が終わった時、ひでまるはなぜか頬を膨らませた。頭にボールを乗せてバランスをとるひでまるに、おや、と思う。
「一年に一度しか会えんのは、恋人同士にとっては十分辛いと思うがのう」
しかしひでまるは「そんなの一瞬じゃん」と、不貞腐れたように言った。そして、
「俺なんて、四年に一回なんだぜ?」
そう言うと、頭から利き足へと移したボールをゴールに向かって思い切りシュートした。ゴールネットが大きな音を立てる。
そこにひでまるの不満が全て詰まったようなシュートじゃった。四年に一回、と言う言葉に、わしは顎髭を撫でた。
「なんでワールドカップは四年に一回なんだよ」
ぶすりと言うひでまるに、わしは頷くしかできんかった。
人間社会は、いまだにひでまるに厳しい。
ひでまるは十分な実力を持っていると言うに、犬であるが故に海外のチームから声がかかることがない。国際試合にも出してもらえん。
唯一世界に名を知らしめられるのが、四年に一度のワールドカップというわけじゃ。燻らずに居ろというほうが無理じゃろう。じゃが、
「ひでまる」
シュートしたボールを拾ってきたひでまるを、わしは呼び止めた。怪訝な顔でこっちを見るひでまるに、わしは言った。
「確かに、お前から見れば織姫星と彦星は頻繁に会っているのかもしれん。じゃがな、物事を己の基準で考えてはいかん」
首を傾げるひでまるに、言葉を続ける。
「たとえば、星たちにとっての一年は、わしらにとっての十年に等しいのかも知れん
もしくは、あの天の川はとてつもない激流で、七夕の時だけ流れが穏やかになるのかもしれん」
「……」
静かに話を聞くひでまるへとわしは歩み寄る。ぽん、とその肩を叩いて、わしは言った。
「物事はの、さまざまな角度で考えることが大事なんじゃよ。さすれば、お前の器はさらに大きくなる
どうせ四年に一度の大会なんじゃ。前回よりも大きな男になってこそ、世界は驚く。じゃろう?」
「……じっちゃん……」
ひでまるは俯いた。
素直なやつじゃ、わしの言葉の意味するところを、よく考えて飲み込もうとしているのじゃろう。
そんなひでまるからわしは空へと視線を移した。
「綺麗な天の川じゃ」
俯いていたひでまるもゆっくりと視線をあげた。
空にかかる満天の星、それにより成り立つ大河を前に、ひでまるは大きく深呼吸をした。この光景を前にして、己の小ささに気がついたようじゃ。
「……じっちゃん、ありがとうな。俺、負けねえよ」
両手で頬を叩いて気合を入れたひでまるは、足元のボールを蹴り上げた。ふわりと浮いたボールを器用に操って、リフティングを始める。
「そうじゃ、焦ることはない。わしはいつでもお前の味方じゃ」
そう言ってやると、ひでまるはようやくいつものように歯を見せて笑った。
「ワールドカップ、楽しみだな!」
そうして再びボールがゴールネットを揺らす。今度のシュートには決意が乗っておった。そんなシュートを決めたひでまるに、わしは心から頷くのじゃった。
