『恋は読むもの語るもの』感想

久我有加 先生の『恋は読むもの語るもの』の感想です
※めちゃくちゃネタバレしてる ※他の久我先生の著書についても触れている ※めちゃくちゃ長い

前提:
久我有加作品は芸人シリーズの漫才コント方面(【何でやねん!】〜【愛だ恋だと騒ぐなよ】)を読了済み。最推しは【片恋の病】
噺家方面は電子書籍で何冊か購入済み。しかしこちらはまだ全く読めていない
今回の【恋は読むもの語るもの】は噺家方面とクロスオーバーしているとのことで、初めは、噺家方面を全く読めていないため見送るつもりだったが、表紙絵が発表された時にあまりにも梨とりこ先生の描かれた青嵐と進也くんが好きすぎて、そして間も無く発表された試し読みで、青嵐が講談する場面と進也くんが稽古する場面、そして周囲の人間が思わず気にかけてしまう進也くんの可愛さ、青嵐の一見不遜なのに優しい性格、それら全てがあまりにもストライクすぎて、書店での購入に至る

感想:
おっっっっもしろかった……!!
久我有加先生の作品とのことで、読み始める前から本文の読みやすさは間違いないと思っていたけど、本当にスルスルとストレスなく読めた。あまりにスルッと引っ掛かりなく読めてしまうので、何度かページを戻ったり進めたりしてむしろ時間を掛けて読みたくなってそのように読み進めた

芸人シリーズの漫才コント方面は、主人公たちの芸風の特徴からか、彼らの会話文に合わせるように、地の文もテンポよく短く区切られて構成されている印象があった。二行以上に跨って地の文が続く様子はあまりない気がしていたし、それが久我先生の特徴なのかと思っていた。
しかし今回は講談師が主人公、かつ上方の講談という、一般的に馴染みのない芸の世界を描いた作品だからか、はたまた講談という芸の特徴を汲んでか、地の文も明らかに今まで読んできた久我作品の中で一番長いし文字数が多い。にも拘らずめちゃくちゃ読みやすい!

最序盤の、試し読みできる範囲にある、青嵐の講談を初めて進也くんが聞くシーンと、進也くんが青右衛門先生に稽古をつけてもらうシーンで、講談という芸や道具について、読者に分かりやすく説明してくれるのが良いよなあ……物語の冒頭として読者をこの世界に引き込む役割はしっかり果たしながら、講談という芸についても丁寧に描いているし、進也くんが青嵐の背を追って講談の世界に引き込まれていく心理情景も過不足なく描かれていて、本当に凄まじい

そしてこの冒頭のシーンが青嵐にとっても転機になったと物語の後半で判明するのだけれど、それを知った後で改めて青嵐の側で読んでも描写に全く過不足がないという。この塩梅というかバランス感覚というか、絶妙な匙加減がとにかく久我先生はお上手だなあと舌を巻いてしまう。これは【片恋の病】で深野が最初から実は由のことが大好きだったと気づいてから読み返した時に、とんでもない説得力を伴って深野のセリフ一つ一つが響いてくるのと全く同じ感覚で、本当に鳥肌もの!

そう、青嵐。最初は本当に【君が笑えば世界も笑う】【もっとずっときっと笑って】のオコみたいな大天才かと思ってたんですよね。実際かなり頭が良いし超進学校出身(しかも奈良県出身なので必然的に出身校は日本国内でも5本の指に入る超名門私立である可能性がかなり高い)という設定からも、相当器用になんでも熟すタイプなのかと
でも実はオコほど何でもできる万能選手ではなかったし、むしろ得意なことはとことん得意だけど興味の無い事は極力やりたくない、それ故に苦手なものはいつまで経っても苦手なままという超極端な性格だったと判明して、そしてそんな彼のそんな性質がぐるっとひっくり返ったのが進也くんとの出会いだったという展開がとにかく見事ですね……!
あの日のあの出来事が双方にとって人生最大の転機だったのだと、そして二人ともがあの日のあの光景を「一生忘れない」と表現しているの、最高すぎません……?最高か??

進也くんも進也くんで、読み進めるにつれてめちゃくちゃ容姿が良いと判明するのが、おまえーーーーーそういうことはもっとはよ言えーーーーーすき!!!!ってなっちゃった
これは読者の側としての感想でもそうだし、おそらく青嵐も全く同じ過程を辿って進也くんがめちゃくちゃ魅力的な容姿をしている同い年の男なんだと思い知ったのだろうなと思うと、本当に……なんて話の展開が上手いんだ……

加えて進也くんは性格もどえらい格好いい
男前、とはまた違う。とにかく主人公気質なんだよな。本人も「『少年漫画の主人公みたい』と言われていた」と言っていたけれど、本当にこんな主人公気質な男キャラ、昨今の少年漫画には寧ろ居ないんじゃないかってぐらいに主人公
みんなを惹きつけて愛されて守られて成長していくのが約束された性格をしている……青右衛門先生が「青葉はお客さんに育ててもろた方が伸びる」と判断したことも裏付けになっている
この、愛されキャラで華があるのに決してそれを鼻に掛けずに自然体なところは【君が笑えば世界も笑う】【もっとずっときっと笑って】のひーちゃんとも似ているかなと
これはこんな子が目の前で大号泣してしまったら喫茶店でホットケーキご馳走してあげたくなるのも道理だし、彼に危害を加えた奴を商店街総出で迎え撃つのも道理だわ……めちゃくちゃ愛され主人公
直向きさや一生懸命さという意味では【思い込んだら命がけ!】の穣太郎にも通ずる良さですね。穣太郎との違いは、進也くんのほうが少し年上なので、人生経験が穣太郎よりあるところと、にも拘らず少年のような謙虚さが眩しいところかな。パワハラという辛い経験をしたからこそ時々ちょっと憂いが滲むところも美味しいし、それでいて素直に声を上げて泣けるところも良い

そう、彼、めちゃくちゃ『少年』なんですよね
同じく泣き虫で自己評価が低い【片恋の病】の由との比較になるんですが、由の感性や憂いは『少女』なんですよね。穢れを知らない高潔さ、猛禽類のような誇り高さ、一点の曇りも澱みもない正義感が、10代の少女のそれ。決して驕り高ぶらないので高飛車ではないのだけれど、どこか高嶺の花のような存在
対して進也くんは、真っ直ぐではあるけれどもこの世の汚れも知っているし、だからこそ人は助け合って手を取り合って生きていくべきだと考えているような。由とは全く別種の正義感を胸に抱いている印象を受けます。由より地に足ついている感じがするし、由よりよほど身近で手が届きそう
そして彼のこういった性質が、時には妬み嫉みを買ってしまって、パワハラを誘発してしまうのかなと思ったりして、それもまたすごく説得力がある

進也くんがパワハラを受けたという事実がただのキャラ設定で終わっていないところも凄いですよね
心が深く傷ついたことが後々にまで進也くんを虐めるし、進也くんを救ってくれた弁護士の大庭先生がその時だけの都合の良いキャラに留まらず、その後も度々進也くんを助けてくれるのが素敵。これは久我作品の特徴だと思うんですが、脇役に至るまで無駄なキャラが一人もいないんですよね……そのキャラ別のキャラで使いまわせるやん、みたいなのが一切ない。その場に必要なキャラしか登場しないの、本当に美しいと思います。とても緻密に計算されている

繰り返しになるけど、実に丁寧に繊細に話運びも作られていると感じます。特にそう思ったのは進也くんが夜の河原で青嵐の前で三方ヶ原軍記を読み終えて、それから青嵐の態度がそっけなくなったシーン
BL小説だから、おそらく進也くんが沢山の知らない人に褒められて、それを目の当たりにして自分の恋心を思い知り、のめり込まないように一線を引こうとしたのかな?と思ってしまったのだけれど、実はそれはミスリードで、青嵐が進也くんの才能と華に講談師として嫉妬を覚えてしまった故だった、という展開に、思わず唸ってしまった……!完全に騙されました

もちろんBLだからわたしが感じたことが全く要素として無いわけではないのだけれど、このシーンはそんな浅いものではなくて、もしかしたら進也くんに嫉妬してしまったことで青嵐は進也くんをパワハラで追い詰めた元上司の気持ちを知ってしまったのかもしれない。他でもない自分が「犯罪や」と両断したその行為に及んだ人物の気持ちを、ほんの少しだけでも理解してしまった自分に対して嫌悪したのかも知れない。そうしてその嫉妬がいずれ膨らんで二の轍を踏んでしまうかも知れないと悟ったから、進也くんを避けるようになってしまったのかも知れない。そんなふうに考えると、そらピヨピヨと雛鳥みたいに慕ってくれる進也くんから離れようとしてしまう気持ちもわかるな……となるし、だからこそ進也くんを攻撃するためにやってきた元本部長を前にこの上なく激昂したのだなと思う

受けを守るために覚醒する攻めがめちゃくちゃ大好きなんですが、このシーンの青嵐の格好良さは、今まで読んだ商業BLの中でも屈指でした
用意周到に場を整えて勝負しに行くのではなく、己の心と体のみで真っ向から対峙して進也くんを守り抜いた青嵐、本当に格好良かったです
本当はとても怖かったと思う。何せ、一歩間違えたら自分があんなふうになっていたのかも知れないという相手に、たった一人で立ちはだかるのは。それでも進也くんのことが何よりも大切で大事だから、一歩も引かなかった。立派だと思います。それはもう進也くんが何も言えずに抱きついて泣いちゃうのも仕方ないわ

大切で大好きなはずの人に嫉妬して八つ当たりしてしまうのは【もっとずっときっと笑って】のオコと共通している。ただ、オコは一人ではどうしようもなくて青海苔の二人に諭されてやっと自分の気持ちに折り合いをつけたのに対し、青嵐は自分一人で気持ちに整理をつけたところが、いい意味でオコと対比になっているなと感じる
ぶっちゃけ100P目ぐらいまでは青嵐はオコみたいな天才だと思っていたので、素直に自分の非力さを認められないところが有るのかもしれないなと思っていたのだけれど、オコが自分の絶対的な優秀さで「自分は自分、他人は他人」と思っているのに対し、青嵐はそもそも違う人間が違う能力を持っているのは当たり前だから比べても仕方がないと言う意味での「自分は自分、他人は他人」だと思っていて、それ故に他人に興味を持てなかったところが有るのだなと。だからどうしてこんなに進也くんに惹かれてしまうのかと、自分の恋情に振り回されることが今後もきっと有るのだろうなと思うけれど、それも含めて進也くんを大事にしてあげてほしいなと思います

青嵐は正真正銘の恋愛初心者で進也くんが初恋の人だけど、実は進也くんにとっての青嵐も初恋の人なんですよね
女性経験は有るし、歴代の彼女を大切にしていなかったわけではないのだけれど、果たしてそれは本当に恋だったのか?という
【片恋の病】の深野に対して、実はこう言う感じだったのではないかと思っていたそのままのことが進也くんに当て嵌っていて、まじかと思いました。それはもう青嵐のことが大好きで大好きで恋焦がれる余りに独占欲が芽生えてしまっても仕方ないし、事あるごとに好き好き言いまくって欲しいなと本当に思います

二人が全く異なる性格でそれまでの人生経験もまるで違うからこそ「そう言えば同い年だった」と時々思い出して納得する描写がとっても良い
講談師としては青嵐のほうが兄弟子だからそのように振る舞うし、普段の力関係も青嵐のほうが上だけれど、互いに対する恋情は対等で、初めての気持ちを二人で手探りしながら進んで行って欲しいなととてもとても思いますし、書き下ろしで少し描写があったように、青嵐よりも進也くんのほうが上手なこともきっと今後多々見つかって、その時は進也くんがリードしてあげて欲しい

そう、この、同い年なのに兄弟のような関係性というのが美味しいんですよね
素の性格も、下に弟がいる青嵐のほうがお兄ちゃんっぽくて、上に兄がいる進也くんのほうが弟っぽいのが、実によく出来ているなあと思います
擬似家族ものとはまた違う、先輩後輩とも違う、芸事における兄弟弟子という関係。日本の伝統芸能ならではだなと思います。でも筆力が無いと「先輩後輩とか擬似家族でええやん」と言われそうな、この微妙な関係を「兄弟弟子やからこそ萌えるねんやん!!」と読者に断言させてしまうこの説得力……本当に凄い……

あと、これは芸能人ならではだと思うんですが、本名とは別に芸名があるのも美味しいですよね
進也くんを芸名の『青葉』ではなく、『進也』と呼ぶ青嵐、本当に好き……愛おしい……
弟弟子としてではなく、一人の人間としての進也くんのことが好きで「守ってやりたいと思うし、面倒見てやりたいと思う。甘やかしてやりたい。あと、まあ、ちょっと、カワイイと思う」と彼自身が不器用に言葉にした気持ちが、彼が敢えて本名で進也くんを呼んだことの何よりの証左で、本当に好き……最高……
進也くんはずっと『兄さん』呼びだけど、そこにはきっとありったけの尊敬と愛情があるのだろうなと想像に難く無いので、それも良いですね

青嵐は自分が進也くんに気後れしてしまって、進也くんが自分のことを好きだってことも俄には信じられなくて、未だに自分は進也くんに釣り合っていないのではと心の底では思っている様子なんだけど、「そんなん自分が兄さんのこと好きやねんから何でもええやん!!」というようなことを言い切れる進也くんの強さも好き……
というかこの構図、めちゃくちゃ推しCPの条件ド真ん中なんだよな……
何かしら負い目や引け目を感じていて「自分は恋人として相応しくない」と思っている相手に「俺がお前を好きな気持ちは無視か!こんなに大好きなのに……!」って怒る恋人……
「俺はしょうもない男やねん」と正直に自分の心の闇を打ち明ける青嵐と「そんな兄さんも好き!」と丸ごと全部愛する覚悟がある進也くん、本当に良いカップルだと思う

青嵐は自分たちがクラスメイトだったら関わることすらなかったと思っている節はあるけど、進也くんは「城戸くんは凄いなあと遠目で見ていたと思う」と考えているのもとっても良いなあ……!
なのでもし二人が同じ高校に通っていたら実際はどうだったのかというパロディネタもぜひ読んでみたいなと本当に思います。お願いします読ませてください!

人のことを素直に尊敬できるし、その気持ちを憚りなく直接相手に伝えることができる進也くんは本当になんというか、人たらしだなあと思いますし、そんな進也くんを密かに尊敬している青嵐も良いですね……
互いが互いに良い影響を与え合うCPは本当に尊いです

進也くんが周囲の人々を褒めまくるからこそ、その人達がどんな性格でどんな芸風かが伝わってくるのも良い演出だなと思います。この歳の男の子がこんなに素直に他人を褒められるのは素直にすごい。それは「自分は全然まだまだあかん」と思うからこそかもしれないけれど、それにしたってそこに悲観や自虐が滲まないのは本当に清々しい
こんなに真っ直ぐに育って、素敵だなあと思います。誰彼構わず褒めちぎるから、進也くんから向けられる自分への好意に青嵐が「ありえん。信じひん」ってなっちゃったのも、なんだかわかる……
でも恋愛感情での好意を抱く一方で、進也くんが講談師として青嵐の隣に並びたいと思う気持ちが、なんだかすごく男の子だなあと思って、とっても好きですね……そういうストイックさが垣間見えるところでも彼はすごく『少年』だと思う
大物アーティストのMVに出演したのも「あくまで講談師として」「講談という芸の認知度を上げるため」というストイックな気持ちからくるもので、その思い切りがめちゃくちゃ潔いし、そこがまた彼の人間的な魅力になっているからこそ、容姿の良さだけでは説明のできない華が彼にはあるのだなあと納得させられます。こんなんみんな好きになってまうやろ

あと本当に脇役もみんな魅力的すぎる。どの講談師の講談も実際に聞いてみたいと思ったけれど、わたし自身がアイドルオタクなので特に榊原満乃介くんのアイドル講談がめちゃめちゃ気になるし、ファンミの主催までやっちゃう行動力を尊敬します……!アイドル講談独演会めちゃめちゃ行きたい
彼の目から見た青嵐と青葉という講談師について語られるブログの短編も本当に本当に好きです!
それに対してあくまで進也と徹平という二人の日常について描いた初回ペーパーもめちゃめちゃ良かった……!おはぎのような控えめな甘さがなんともほっこりした気持ちになりました

なんだかまだまだ語り足りないような気がするし、後から後から「あれも書けばよかった!!」ってなりそうな気もするんですが、そうするといつまでも終われない気がするので、ひとまず今回はここで終わります

繰り返しになりますが、本当に本当に面白かったですし、何度も繰り返し読むことになるであろう大好きな本になりました。元々ホットケーキが大好物なのですが、これからこの先ホットケーキを食べるたびにニヤニヤしてしまいそうです
そして本当に、この二人の、この一門の、この世界の登場人物のお話が、もっともっと読みたいです。お待ちしております!!

余談:
進也くんにはパンダドラゴンの【愛されキャラでごめんなさい】を歌ってほしいです
『愛されキャラでごめんなさいね』なんて確信犯で言うような、ここまであざとくは無さそうなのは承知の上で、
それでもこの曲の、真っ直ぐで一生懸命に日々少しずつ歩いていく主人公の雰囲気が、この上なく進也くんだなって思います
『愛してくれて ありがとさんきゅう! 愛しているよ 僕も同じ気持ちさ』

2023/11/14 記
2024/12/18 鍵垢から転記
2025/8/12 ふせったーより転記