ささくれ

ノエルはごぼうを鉛筆のように包丁で削った。
ロビンに食べてもらうきんぴらごぼうを作るためだ。

昨日、些細なことでロビンと口論になった。
本当に些細なことだったので、何が原因だったのかと聞かれると思い出すことができない。
それは指先にできるささくれのようなものだった。
気にしないふり、気づかないふりをしていればいずれ癒えて消えてしまうはずのものを、しかしノエルは引っ張ってしまった。
その結果傷口が広がり、痛み出した。
昨日のロビンとの口論は例えるならそのようなものだった。

このままでは化膿してしまう。きちんと治療しなければ。
でもどうやって?
悩んだ末、ノエルはこうして料理を作ることにしたのだ。

ごぼうを切り終えたその時、玄関扉の開く音がした。
ノエルが自分の部屋のキッチンに立っていることに驚いているロビンに「おかえり」と言うと、一拍遅れて「ただいま」と返事があった。

「どうしたの? 君が料理をしているなんて」
「たまにはいいでしょう。それとも不満?」

首を傾げたノエルにロビンは首を横に振った。鞄とコートを置いたロビンは流しで手を洗い、ノエルの調理を手伝った。

ノエルはいつロビンに謝ろうかとタイミングをはかりかねていたのだが、フライパンでごぼうを炒める時になって、ロビンが不意に「昨日はごめん」と言った。

「本当に悪かった。君を傷つけたこと、とても反省しているんだ。許してほしい」

ロビンの声は震えていた。本当に自分が悪いと思っているのだとわかって、ノエルは「あなただけが悪かったなんてことはない」と言った。

「こちらこそ。あなたのほうもたくさん傷ついたでしょう? 本当にごめんなさい」

そう心から謝って、ノエルはやっと穏やかな気持ちになれた。見ればロビンも同じように笑っている。

「じゃあ、今回はお互い様だね」
「ええ」

心にできたささくれはもうどこにもない。フライパンからはごぼうのいい匂いがする。
これを食べればもっと心は穏やかになるだろう。ノエルは機嫌良く調味料を加えて味を整えた。

「ところで、どうしてきんぴらごぼうを?」

ロビンの質問に、「よくぞ聞いてくれました」とノエルは胸を張った。

「このごぼうの切りかた、日本語では指にできる『ささくれ』と同じ名前なんでしょう?
昨日の、ささくれを無理に剥いたみたいな喧嘩の仲直りにはいいかなと思って」

得意げになってノエルは言ったのだが、それを聞いてロビンは噴き出した。

「ノエル、指にできるのは『ささくれ』だけど、このごぼうの切りかたは『ささがき』だよ。
最初の二音しか合ってない」