娘のおゆうぎ会での役は、かまどに放り込まれる悪い魔女だった。
「ほんとはグレーテルがやりたかったのに」と、むくれる彼女を
「魔女はね、いちばん上手な子がやる役なんだよ」と、慰めながら歩いた帰り道。
同じ道を今、隣で手を繋いだ彼女はご機嫌で歩いている。
その歩幅に合わせて彼女が羽織ったビニール袋製のマントが揺れている。
ビニール袋の黒色にさまざまな色と形のいろがみを貼ったそれは、彼女の自信作だ。
おゆうぎ会での娘は、どう見ても悪い魔女だった。
『いちばん上手な子がやる役』だから、誰よりも一生懸命にやらなくちゃ。
そう思ったらしい彼女は、一生懸命にセリフを覚え、演技を磨き、今日を迎えた。
きっと彼女が当初の希望通り主役の少女を演じることになっていたら、ここまで一生懸命にはならなかっただろう。
彼女の努力は実を結び、劇を観たものはみんなして彼女を褒めた。いろんなおともだちのパパやママに褒められた彼女は照れ臭そうに、「このマント、いいでしょう」とはにかんだ。
その顔は、さっきまで悪い魔女を演じていた女の子のものとは思えなかった。
「おとうさん、あのね」
隣で手を繋いだ娘がこちらを見上げている。
「なんだい?」と聞くと、娘はもう一度「あのね」と言った。
「わたしね、もっと悪い役をいっぱいやりたいの」
そうしてマントの端を掴んだ。
「このマントね、もっとにあうようになりたいの」
そう言って目を輝かせる娘はやっぱり悪役とは程遠くて、知らずに目を細めてしまう。
「そうだね。おとうさんも、もっと見たいな」
いつしかこのマントは上質な布になって、ちりばめられたいろがみは綺麗な宝石になるのかもしれない。
そうなったらどんなに素敵なことだろうと思いながら、幼い手をぎゅっと握ると、娘は声をあげて笑った。
