すいか

ブラジルへ渡ってまず驚いたのは、市場に並ぶ果物の豊富さだ。そもそもの国土面積が日本より広大な上、南国の気候が果物栽培に適しているからだろうとは思う。
総じて、日本より大ぶりな果物が安価で売られている。

甘く、栄養価の高い果物は、練習終わりのデザートとして最適だ。
だから俺たちは、今日も練習帰りに市場へと足を向けた。チームメイトたちは次々に、自分の好きなものを選んでいく。

俺は今日はどうしようか。陳列されたフルーツを見ながら考えた。マンゴー、パパイヤ、ココナッツ……。
視線を彷徨わせ、売り場を徘徊していた俺は、一つの果物の前で足を止めた。緑地に黒の縞模様が入った大きな果実、スイカだ。

例に漏れず、ブラジルのスイカは日本のものよりも大きい。巨大と言っても差し支えがない。
そのあまりの大きさから、一人で買っても食べきれないことが目に見えているため、俺はまだブラジルでは一度もスイカを食べたことがなかった。

こんなに大きなスイカ、一体何人分になるんだ?
そう思った時ふと、懐かしい光景が思い起こされた。
あれは全国少年サッカー大会に向けて練習していた夏の日だった。チームメイトの一人がスイカを差し入れてくれたのだ。

チームメイト二十五人だけでなく、記録係や監督たち、関係者全員に行き渡ったスイカの、切り分けられる前の姿はどんなものだったのかわからない。
だが、今目の前にあるこの巨大なスイカのようなものを、俺は想像してしまっていた。そして、

『火山くんってーー』
「ヒヤマ、何を買うか決めたか?」

掛けられた言葉に、俺は驚いた。
どうやら思い出に浸っていたらしい。声のしたほうを振り返ると、バスクがこちらへやってくるところだった。
側までやってきたバスクは不思議そうに片方の眉を吊り上げて「どうしたんだ?」と聞いてきた。

「いや……なんでもない」
「ふぅん?」

俺の言葉にバスクはまだ納得がいっていないようだったが、視線を俺から外してスイカを見た。

「スイカにするのか?」
「……こんな量、一人では無理だ」
「カットしてもらったら良いんじゃないか?」

バスクの言葉に「それはそうなんだが……」と俺は言った。

「巨大なスイカを大勢で分け合って食べるほうが、旨く感じる気がする……」

そう呟いた途端、隣でバスクが目を丸くしたのを感じた。妙な沈黙が流れる。
俺は何か変なことを言ったか? そう訝しんでいた時だった。

「お前、そういうことを言うんだな」

心底驚いたと言わんばかりにバスクがそう言ったので、俺は「は?」と首を傾げる。

「事実じゃないか? 食事は大勢で共有したほうが楽しいだろう?」
「ああ、それは認める。だが、お前がそういうのが意外なんだよ。もっと孤高の男だと思っていた」

そうして口元を緩めるバスクに、俺はつい先ほどまで回想していたかつてのチームメイトの姿が重なった。

『火山くんって、スイカみたいだよね』

大量のスイカを差し入れてくれた、前髪の長いチームメイトへ礼を述べた時に言われた言葉だ。
意味を測りかねて尋ねると、彼は笑って言ったのだ。『見かけと中身が全然違う』と。

『もっと冷めてて、他人に興味がないんだと思ってた。
でも真逆だよね。こうやってわざわざお礼も言ってくれるし、みんなで楽しめることが大好きだよね』

笑顔でそう言う彼に返した言葉。それと同じことを、俺は今度はバスクに言った。

「サッカーは一人ではできない」

バスクは、やはりと言うべきか、元チームメイトと同じように目を細めて「そうだな」と同意した。

「よし。じゃあ、このスイカは俺が買おう」

そうしてバスクは一際大きなスイカを指差し、店員を呼んだ。俺は慌てて財布を出したのだが、それを片手で制される。

「気にするな。明日の練習後にみんなで分けて食べよう」

それはなんとも魅力的な提案で、俺はその光景を想像して頬を緩めずにはいられなかった。

「……わかった。ありがとう、バスク。馳走になる」

礼を述べると、バスクは「どういたしまして」と笑った。

ブラジルの空の下で食べるスイカはどんな味だろう。日本のものよりさっぱりした味わいだと聞いたことがあるが、大勢で分け合って食べるスイカはこの上なく美味いに違いない。
俺はそう、確信しているのだった。