練習着に着替えようとロッカールームへ入室したところ、一郎丸の鼻が違和感を覚えたそうだ。
饐えたような臭いの出どころを辿って、そのロッカーを開け、
「……!? うわあああ!!」
響く絶叫に驚いて、全員がその場へ駆けつけた。
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「由々しき事態だ」
一郎丸の真剣な物言いに、山梨代表全員が頷かざるを得なかった。この背番号一〇番を本気で怒らせてはいけないとは、誰もが思っていたことだ。いわゆる暗黙の了解だった。
その禁があえなく破られてしまった。
ロッカールームに、言葉にするのも恐ろしいあの黒い虫が発生した。
一郎丸の悲鳴を聞きつけて駆けつけた山梨代表チームが目にしたのは、腐り果てた菓子の山と、そこに群がる虫だった。見るも悍ましい光景だったが、彼らは手分けをしてそれらを片付けた。
そうして今、彼らは緊急会議の真っ只中だった。
「別に犯人探しをしたいわけじゃない」
一郎丸の低い声に、誰かが固唾を飲んだ。
「再発防止を徹底したい。来る合宿で、この惨事を繰り返さないために」
異論は出なかった。いや、有ったとしても逆らえなかっただろう。それほどまでに一郎丸は恐ろしかった。
静まり返ったロッカールームの中、一郎丸の声だけが響く。
「菓子類の持ち込み禁止はもちろんのこと、以後、ロッカールームでの飲食を禁ずる」
無情な決定だったが、誰も逆らうことはできなかった。
一郎丸が全員の顔を見渡す。言葉こそなかったが、「返事は?」と問われているのがわかって、全員が頷いた。
重苦しい会議は尾を引き、その日の練習に活気は戻ってこなかった。そんな中、
「のわあああああ!?」
再びロッカールームから絶叫が響いてきた。
嗄れた老人の声、ロッカールームに飛び込むと、思い描いて居た人物……いや、亀が、綺麗になった件のロッカーを前に頭を抱えていた。
「わしの、わしの楽しみにしていたおやつが……!」
カタカタと震えながら言葉を発する老亀に、一郎丸は静かに言った。
「老師、お話があります」
ロッカールームに、大絶叫が響き渡った。
