山越運動場で開かれたバザーで三郎丸が当てたのは、最新式の水鉄砲だった。
「すげー! めっちゃいいじゃん!」
一緒にバザーを巡っていたひでまるは、三郎丸が当て物コーナーで貰ってきたそれを見て興奮した。外箱の様子からほとんど使われた形跡がないことが窺える。
しかし、興奮するひでまるに対して三郎丸は戸惑っている様子だった。そんな三郎丸の様子に、ひでまるは首を傾げた。
「? どうしたんだよ、嬉しくないのか?」
小さな体に抱えた大きな箱を見下ろす三郎丸を、ひでまるは伺った。三郎丸はひでまると目を合わせることなく黙って箱を見つめていた。
普段ひでまると三郎丸はとてもよく気が合う。俺だったらこんなすごいの当たったら飛び跳ねて喜ぶし、三郎丸もそうに違いないと思っていたはずなのに、なんか妙だなとひでまるは思った。
すると、
「……しよう」
「へ?」
三郎丸が何かを呟いた。ひでまるが声を発すると、再度三郎丸が呟く。
「どうしよう」
「何が??」
意味がわからずに三郎丸の顔を覗き込む。すると、三郎丸は勢いよく顔を上げて、こう叫んだ。
「俺だけこんな……! 一兄と二郎兄になんて言やぁいい!?」
あまりにも必死に叫ぶので、ひでまるは驚いてしまった。だが、言っている意味がよくわからない。
ぽかんとしてしまったひでまるだったが、その間にも三郎丸は「どうしよう、どうしよう」と言い続けるので、流石にこれはまずいと思って「三郎丸!」と名前を呼んだ。名前を呼ばれた三郎丸はようやく言葉を発するのをやめて、ひでまると目を合わせた。
「落ち着けよ。一と二郎丸がどうしたってんだよ」
言葉だけでなく、正面から三郎丸の両肩を叩くことで、ひでまるは三郎丸を宥めた。
すると若干落ち着いたらしい三郎丸が、再び視線を水鉄砲へと落として、言葉を紡いだ。
「……三男の俺だけ、こんないい水鉄砲持つわけにはいかねえよ」
曰く、万年寺三兄弟は何かを買い与えられる時には三人とも同じものを買ってもらっているのだそうだ。
生まれた順で優劣や贔屓をされることがない代わりにわがままも許されない。水鉄砲だって今まで買ってもらったものは三人揃いの質素なものだった。
そこに突然、こんな良い水鉄砲を一人だけ手に入れてしまったことに対する戸惑いや引け目。
その感情が、嬉しいと思う気持ちを上回ってしまい、三郎丸は混乱してしまったらしい。
「俺、これ返してきたほうが良いよな……?」
ひでまるに縋るような目を向けて三郎丸はそう言った。ひでまるが「そうだな」と言えば、一目散に飛んで行くことは間違いないだろう。だからひでまるは首を振った。
「これはお前が当てたもんだろ?」
ひでまるの言葉に「でも」と食い下がる三郎丸が何かを言う前に、ひでまるは言った。
「これはお前が偶然当てたもんだ。わがまま言って買ってもらったもんじゃねえだろ?
だからお前が持ってていいんだよ。抜け駆けしたような気にならなくて良いんだ。兄貴達もわかってくれるって」
三郎丸は黙ってひでまるを見ている。そんな三郎丸に、「それによ」とひでまるはさらに言葉を重ねた。
「俺、その水鉄砲がどんだけすごい水鉄砲なのか、見てみたい。
んで、その水鉄砲使うお前と勝負したい!」
ひでまるはそう言って歯を見せて笑った。
黙って話を聞いていた三郎丸は「勝負……」と呟いてひでまるの顔と水鉄砲の箱とを見比べた。
箱には『飛距離約十メートル!』と言う文字が踊っている。ずっと難しい顔をしていた三郎丸の顔が、笑顔に染まってゆく。
「そうだな……! その勝負、受けて立ってやる!」
そう言った三郎丸からは、もう戸惑いは感じられなかった。いつも通りの勝気な笑顔に、ひでまるは一層笑って「ああ!」と言う。
三郎丸が、遠慮がちに持っていた水鉄砲の箱を両手でしっかりと抱える。ひでまるはそれを確認して、二人はバザー巡りの続きを再開した。
