『タブロウ・ゲート』感想

鈴木 理華 先生作『タブロウ・ゲート』のネタバレ感想です

みんなが救われるエンディングで良かった……!それに尽きます

24巻まで読了済みで、26巻で完結したという話は聞いていたんですが、いろいろなタイミングが合わなかったのと、終わりを見届ける覚悟が足りなくて、今の今まで読んでいませんでした
24巻からたった2巻で本当に納得のいくエンディングが迎えられたのだろうかと恐ろしかったのもあります。でも25巻からの展開が本当に熱くて、見事な切り返しでした。鈴木先生が25巻発売時に『伏せていたカードを捲っていきます』とおっしゃっていた意味が痛いほどに伝わってきて、24巻までの謎が次々と解明されていくのが気持ちよかったです。どうしてイレイズがあんなに死神に執着していたのかがわかった瞬間は息を呑みました……

24巻まで読了していた時点での最推しはサツキくん版のアレイスターで、もちろん今でも大好きなんですが、読み返していて好きになったのは星と怪盗J、最終巻まで読了して好きになったのは創造人と死神です

星に関しては、24巻までの展開を知っている状態だったので、何も知らないでいた頃とは彼の発言や行動が全く違うふうに見えてきてしまって……
たった一人、『命令』によって、生まれた時そのままの人格を否定されて封印されてしまったことに対する生き辛さ、創造人に対する複雑な気持ち、太陽への憧れと好意と執着。それらが一本の線で繋がった瞬間から本当に愛おしくて堪らなくなりました

怪盗Jは最初はイロモノ枠だったのにだんだん格好良くなっていくのがずるいですよね
絶体絶命のピンチで駆けつけてきてくれるのは決まって彼ら二人なんだもんな……私はタイミングの良い男が好きです
特に審判は幕間のカットで煙草持ってる絵を見て撃ち抜かれてしまいました。そんなん好きに決まってるやん
タブロウとして生きるか、怪盗Jとして生きるかと葛藤し、一度はタブロウとしての生き方を捨てた彼らが、タブロウになっても怪盗Jそのままの性格だったのが嬉しかったです。もしかしたら微妙に違うかもなんだけど……大きく違わなかったのはサツキもレディも怪盗Jとしてのイメージを大切に思っていてくれているからなのかな?

創造人。24巻までの感想は「なんて勝手な人なんだ」でした
自分の都合でタブロウたちを創り、そのくせ星の人格は完全否定。同じ口で「命令や強制はしたくない」と力の侵した罪を放任(しかも星の目の前で
ですが25巻、そして最終巻まで読むと、彼も一人の人間だったのだと、人間だから矛盾や間違いがあるのは当たり前なのだと、血肉の通った存在として受け入れることができました
サツキから託された「僕の家族を作って」という願い。それこそが彼にとって一番の使命で、家族の和を乱しかねない、ありのままの星の性格ではサツキの家族に相応しくないと考えたからこそ、命令までして星の性格を封印したのだなと。自分のためではなく、家族のためだったのだなと……親心ですね……
ヤヨイさんと心を重ねていく姿が本当に微笑ましくて好きです……!

そして死神。なぜ散逸してからもイレイズに忠誠を誓っていたのか、己が罪に苛まれながらもどうしてイレイズから離れなかったのか
24巻までの時点では、ヤヨイさん(前代管理人)=イレイズを弑虐した罪の重さだけを背負っていたのかと思っていたんですが、それほんの端っこに過ぎなくて、彼の選択(サツキを置き去りにしてしまった)ことにより、ヤヨイさんが精神を病んでしまったことこそを何よりも悔いていたのだな。その過ちを繰り返さないようにと、彼女の願いを聞き入れ殺してしまったのだし、それ以降も彼女への償いのために付き従っていたのだなと……
あまりにも真っ直ぐで不器用で、優しすぎる。その彼の心こそが彼自身を追い詰めて、自身の姿を保てないほどの瀕死の状態になってしまった
精神を病んでイレイズとして復活した前代管理人が、死神と創造人を混同していったのも悲しい話で、それでも彼女にとっての死神は変わらず「ずっと私のそばに居続けてくれる人」だった。だから死神はその言葉の通り彼女のそばにあり続けた。そのことが何よりの悲劇だなと思いました……救われてよかった……!
サツキの「心あるもの」というイメージによってもまた、救われたのだろうなと思います

サツキのイメージによって救われたといえば、運命の輪もそうですね
自力でどこにも行けない植物の姿をしているが故に、自分自身をも追い詰めてしまうほどに悩んで悩んで考えるのを止めるという選択をしてしまった彼女が、人型のタブロウとして具現化したのを見た時は本当に嬉しかったです
吊るし人との蟠りも解消して、仲良く暮らしている様子が見てとれたのもよかった……!

そもそもの話をするんですが、タブロウについての設定がめちゃくちゃ好きなんです
特定の人格を持たず、召喚した主人のイメージによって、性格や姿が変わる存在
わたしは普段自分のキャラクターを描く時に、わたしの思うイメージと他の人が受ける印象は違って当たり前だと思っていて。なのでわたしのイメージだけに偏りすぎない創作がしたいと常々思っているんですが、タブロウの存在はそれを肯定してくれているような気がするんですね
同じ経験をしたとしても、一人一人抱く感想は違う。同じ漫画を読んでも感じることは様々。それはともすれば見落としてしまいそうになってしまうことだけれど、何よりも大事なことだと思っています。それを強く感じさせてくれる、タブロウという存在が大好きです

特定の人格を持たないが故に、不安定な存在ではあるけれども、それでも彼らの根幹にあるトラウマや人を慕う気持ちは全人格で共有されているというのもいい設定ですよね
アレイスターの、創造人を死へ追いやってしまったという後悔、それゆえに何よりもマスターの安否を重視する姿勢、そして星への憎悪にも似た負の感情。それらがサツキ版の沈着冷静で合理的なアレイスターと、レディ版の快活でおバカなアレイスターの間で共通しているというのが美味しい……!!
それこそがこの作品を何倍も魅力的にしている設定だなと本当に思います

サツキとレディで同じタブロウに対してのイメージが真逆なこともあるのが面白いですよね……隠者、塔、節制あたりが特に印象的
マスターが二人いるからこその対比がとても面白くて、なのでレディの正体が明らかになった時、もしかしたら今後レディがタブロウを剥がすことはないのかもしれない、あのタブロウたちには今後一切会えないのかもしれないと思うとものすごく残念な気持ちになったのですが、そんなことは一切なかったのでとっても嬉しかったです!
タブロウとして生まれたレディが愚者の力で人間になったというエンディングも素晴らしかったですね……!

結果的に、愚者のページは白紙になってしまったとのことですが、わたしは愚者は創造人やイレイズだけではなくサツキも含めたあの一家全員がそうなのではないかと考えています
愚者ってそもそもが0番という特別なカードなんですよね。なのでどういう立ち位置になるのだろうと思いながら読み進めていたところがあるのですが、なるほどと思いました。タブロウとしては一番最後のページだけれど、存在自体は他のタブロウたちよりずっと前からそこにいたマスターである……つくづく設定がうまい……

一体鈴木先生はどこまで計算してこのお話を描かれたのだろう。そしてこの連載の横でサイファやヒーローズのお仕事もされていたのが本当に超人的すぎる……!!
ですが本当に、本当に面白かったので、機会があればスピンオフも描いていただきたい気持ちでいっぱいですし、全く別のお話もまた読ませていただきたいなと思っております……!!
その日を楽しみに待っております!

2022/10/25 ふせったーにて公開
2025/9/5 ふせったーより転記